不動産の個人間売買のこと メリットとデメリット

一般的な不動産の売買には、不動産会社が仲介として入りますが、親子間、親族間、知人や友人、隣人との不動産売買で考えられるのが、個人間売買です。不動産会社が仲介に入らない分、仲介手数料など大幅なコストカットも可能ですが、一方で問題となるのは、取引上の難しさです。そんな、不動産の個人間売買のメリット・デメリットを、詳しくお伝えします。

不動産の個人間売買とは

仲介の不動産会社を入れずに、個人である売主と買主だけで不動産取引を行うことを、個人間売買といいます。まずは、不動産の個人間売買と、一般的な仲介による売買の違いについて解説します。

どんな人がするものなのか

不動産の個人間売買は、主に親子や兄弟姉妹、親族、友人といった親しい間柄において行われることが一般的になっています。

・所有地を隣人に売却する
・貸している土地を借主に売却する
・借地権者に相手の家が建っている底地を売却する

など、取引の相手方が既に決まっている場合にも個人間売買によって取引されることがあります。このほか、最近ではインターネットサイトを介して知り合った相手との個人間売買も行われています。

一般的な不動産会社仲介での売買

一般的な不動産売買は、宅地建物取引業の免許を取得している不動産会社の仲介によって行われます。不動産売買における仲介業務は、以下のような流れで行われます。不動産会社はまず、売主から相談を受けた物件の「査定」を行います。そして、売主と不動産会社との間で「媒介契約」を締結します。媒介契約には次の3つの種類がありますから、売主の意向や物件に合わせて契約のタイプを選択します。

■一般媒介契約
他の不動産会社にも重ねて仲介を依頼することができます。積極的な販売活動や、指定流通機構(レインズ)への登録等は各社の任意となります。
■専任媒介契約
他の不動産会社に重ねて売却依頼をすることはできませんが、親戚や友人・知人など自分で探した相手(自己発見)であれば売買契約を結ぶことは可能です。媒介契約が成立したら、不動産会社は物件広告を作る、指定流通機構(レインズ)に登録する、インターネットに掲載するなどの「広告宣伝」を行います。
■専属専任媒介契約
他の不動産会社に重ねて売却依頼をすることも、自分で探した相手(自己発見)と売買契約を結ぶこともできません。媒介契約が成立したら、不動産会社は物件広告を作る、指定流通機構(レインズ)に登録する、インターネットに掲載するなどの「広告宣伝」を行います。

問い合わせがあれば資料を送り、「物件案内」をして詳細を説明します。購入希望者との価格交渉を行い、正式に購入の申し込みがあれば売主と買主との間で「売買契約」の締結を行います。売買契約にあたっては、不動産会社が契約書を作成し、契約締結時には宅地建物取引士による「重要事項説明」が行われます。仲介による取引が成立したところで、売主および買主は不動産会社に仲介手数料を支払います。

仲介手数料についてはこちらの記事を参照ください。

不動産売買の仲介手数料の仕組みについて【知識】※クリックで別の記事が開きます

個人間売買のメリット

金銭的なメリット

個人間売買を選択するもっとも大きな理由が、この金銭的なメリットでしょう。例えば、個人間売買であれば不動産会社に仲介手数料を支払う必要がありません。例えば、2,000万円で契約した場合、実に726,000円もの仲介手数料が不要となります。

この費用的な側面から個人間売買を選択する人もいます。

心理的なメリット

個人間売買は、売主と買主が親子間や親族間などお互いをよく知る間柄であり、形式的に金銭を授受する取引であれば、大きな問題が発生することもなくスムーズに進むでしょう。

むしろ、この場合は不動産会社を間に入れない方が、心理的な負担も少ないと考えられます。ただし、金銭の授受があった場合でも、それが時価(通常の取引価額または相続税評価額)を大幅に下回る金額だった場合、時価と売買価格の差額に対し贈与税が課せられる可能性もありますので、売買を行う前に税理士等専門家へのご相談をおすすめします。特に親族間の売買となる場合には贈与税の対象とならない様に充分な注意が必要です。

個人間売買のデメリット

住宅ローンが組みづらい

住宅ローンの審査を受ける際、必要書類として「売買契約書」「重要事項説明書」の提出を求められることが多いです。いずれも個人で作成できないものではありませんが、「重要事項説明書」に関してはとくに契約不適合責任の有無を判断し、物件を評価する上での重要な書類ですから、宅地建物取引士の責任において記名・押印のされていないものは正式書類と認められない可能性が高いです。

このほか、【売主と買主の共謀による住宅ローンの不正利用】、【売買契約書の不備による契約上のトラブル】等のリスクを回避、防止する意味でも、個人間売買では住宅ローンの審査が通りづらくなっています。

売買契約書の作成が難しい

宅地建物取引業法において、不動産売買の際には当事者に交付するための「売買契約書」と「重要事項説明書」を作成し、宅地建物取引士が記名・押印して重要事項説明を行うことが義務付けられています。ただし、これはあくまでも宅地建物取引業者に対して課された義務であり、個人間売買においてはこのような義務はありません。民法上は「口約束」でも契約は成立することになっており、契約書がなくても取引を行うことは可能です。

しかし、何百万円、何千万円という金銭の授受が発生する不動産売買を、親しい間柄とはいえ口約束だけで行うのは大変危険です。「言った」「言わない」による後々のトラブルを避けるためにも、取り決めの内容はしっかりと書面に記しておく必要があるでしょう。売買契約書には、引き渡し前に天災などで物件が滅失・毀損した場合の危険負担や、契約不適合責任、住宅ローンの借り入れができなかった場合のローン特約についてなど重要なポイントがいくつもあります。個人で作成するには、かなりの手間と時間を要することになります。

契約不適合責任

不動産取引において、何かとトラブルの発生しやすいのが「契約不適合責任」の問題です。

中古住宅や土地の場合、民法により売主は『発見した時から1年間』責任を負うとされていますが、これは引き渡し後何十年たっても契約不適合責任を負い続けるということであり、売主の負担があまりにも大きすぎると言われています。そのため、売主が個人である場合の取引においては、契約不適合責任について「責任を負わない」「引き渡し後○カ月間は責任を負う」などの特約をつけることも可能となっています。

何も知らずに売買契約が成立してしまうと、売主は契約不適合責任に関して甚大な負担を負うことになってしまいます。双方でしっかりと話し合い、お互いが納得のいく取り決めが必要です。

価格交渉等、当事者間のトラブルの可能性

親族や友人、知人という親しい間柄であるからこそ起こりやすいのが、個人間売買における当事者間のトラブルです。

例えば仲介による取引の場合、不動産会社がきちんと査定を行った上で売買価格を設定します。価格交渉の際にも「値引きできる範囲」はある程度決まっていますから、不動産会社はその範囲内で売主・買主双方の意向を確認しつつ、話をまとめてくれます。それに対し、個人間売買では双方が直接話し合って、価格そのほかの条件を決定します。

ところが、1人の売主に対して複数の見込み客がいる仲介による取引とは違い、買主が既に決まっている個人間売買においては売主側に優位性がないため、協議が難航しがちです。売主側に専門知識がないことも、協議が難航する理由の1つとなり得ます。

個人間売買の必要書類と必要経費

必要書類(通常想定される必要書類)

■登記簿謄本(登記事項証明書)
不動産の権利関係がわかる書類です。建物が建っている場合には土地と建物の両方をそろえておきます。管轄の法務局で手数料を負担すれば誰でも取得できます。
■公図
土地の境界や、建物が建っている場合にはその位置関係のわかる書類です。同様に管轄の法務局で誰でも取得できます。
■固定資産税評価証明書
土地や建物など固定資産の評価額を証明する書類で、固定資産税の日割り計算を行うのに必要な他、登録免許税の計算、登記手続きに必要です。各市町村の窓口で手数料を負担して取得できます。
■登記済み証/登記識別情報
一般的に『権利証』と呼ばれるもので、不動産の所有者は必ず保有しているもので、これが無ければ売買は出来ません。
■確定測量図
土地の境界を確定した測量図です。確定測量図がない場合でも境界標(敷地の境界点を示す標識)があれば問題はありませんが、確定測量図も境界標もなく、境界が明確でない場合には、注意が必要です。仲介による取引であれば不動産会社から確定測量の実施を求められますが、個人間売買では境界が明確でない場合でも取引は行えます。しかし、後々のトラブルを避けるためにも、売主の責任において土地の境界明示はきちんと行っておくことが重要です。
■不動産取得時の書類
購入時の書類としては「売買契約書」「重要事項説明書」があります。「請負契約書」「確認済証」「検査済証」「設計図書」など家屋を新築した時の書類が残っていれば、それらも準備しておきます。
また、売主は売却後『確定申告』の必要書類として、購入時の「売買契約書」が必要となります。
■状況に応じて必要な書類
地盤調査や耐震診断、住宅性能評価、そのほか調査関係を行っている場合には、各報告書を添付する必要があります。。家屋を売却する場合であれば設備の使用説明書や保証書関係のファイルを、マンションであれば管理規約などを一式まとめて用意しておきます。
このほか、売買契約書を作成する場合や、登記を司法書士に依頼する場合には、売買契約書や委任状に売主の実印を押印する必要があります。実印印鑑証明書が必要です。また、買主が売買代金を支払う場合には、売主は領収書の発行が必要です。

必要経費(通常想定される経費)

■印紙税
売買契約書を作成したら、売主・買主双方が収入印紙を貼付する必要があります。印紙の金額は売買代金により異なります。
■登録免許税
所有権移転登記の登録免許税は、買主側が支払います。不動産の固定資産税評価額に、税率を掛けた金額が所有権移転登記の登録免許税です。その他、抵当権がある場合、抹消する為の登録免許税も必要です。
■司法書士報酬
登記を司法書士に依頼する場合、司法書士報酬を支払う必要があります。

さいごに

不動産の個人間売買を行うことは簡単ではありませんが、不可能なことではありません。しかし、仲介手数料を節約できること以外には、あまりメリットがあるとは言えず、手間や時間がかかる、無用なトラブルを招きやすい、住宅ローンを組みづらいなど、デメリットの方が多くなります。

ケースバイケースとは言えますが、おもむろに個人間売買をしようとして、トラブルを招く可能性があるのであれば、敢えて仲介手数料を不動産会社に支払うことで、より安心を得られる安心料として依頼するのもひとつの選択肢と言えるのではないでしょうか。

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